ツッコミを入れて、ストーリーを読み解く ー数学からぼくが学んだこと3ー
「”ひらめき”は必要でない」という目で数学を眺める。ストーリーを読み解く気持ちで解説を追う。
そうしていくと、問題の解説や定理の証明を読んでいるとき、ことあるごとに「ここはなぜこう考えるのか?」「式を変形すると確かに成り立つ。けど、なぜこう式を変形しようと思うのか?」などの疑問を抱くようになります。
”ひらめき”は必要ではないと思うということは、すべてに対し、「そう考えていく理由があるはず、手がかりがあるはず」と考え、「そう考えていく理由はなにか?」を問い、その答えを探していくことになります。
ぼくはこれを、「ツッコミを入れる」と言っています。ことあるごとに「(そう考えていく理由は)なんでやろう?」と問うていくわけですから。
$\sin \theta + \cos \theta = \displaystyle\frac{1}{3}$のとき、$\tan \theta + \displaystyle \frac{1}{\tan \theta}$の値を求めよ。
問題を読み、考える。条件と求めるものを確認し、さらに考える。
でも、わからない、解き進めれないことだってあります。はじめからなんだって解けちゃう、なんてことはありません。
そこで解説を読んでいってみます。一行目には、こんな式変形が書かれていました。
$\tan \theta + \displaystyle \frac{1}{\tan \theta} = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta} + \displaystyle \frac{\cos \theta}{\sin \theta}$
解答を読み、こう考えるかもしれません。「なんでこう式変形するんやろう?」「なぜこう式変形しようと思うんやろう?」と。
「なんで?」というちょっとした疑問を大切にしてほしいな、と思います。
ツッコミを入れ、考えてみてほしいな、と思います。
この式変形では、$\tan \theta = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta}$という、$\tan \theta$と$\sin \theta , \cos \theta$との関係を表す式を用いて、$\tan \theta + \displaystyle \frac{1}{\tan \theta} = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta} + \displaystyle \frac{\cos \theta}{\sin \theta}$と式変形しています。
もしかしたら、「なぜこう式変形しようと思うんやろう?」と考えながら式を眺ると、すぐにその理由がわかる人が多いかもしれません。
ここでは丁寧に、式変形の理由を考えていきます。条件と求めるものを確認しましょう。
- 条件:$\sin \theta + \cos \theta = \displaystyle\frac{1}{3}$
- 求めるもの:$\tan \theta + \displaystyle \frac{1}{\tan \theta}$の値
となります。
求めるものは$\tan \theta$で表されているのに対し、条件としては$\sin \theta , \cos \theta$の関係式が与えられている。
つまり、このままでは、求めるものに対して、条件を利用することができそうにありません。
となると、条件の$\sin \theta , \cos \theta$を式変形して$\tan \theta$を登場させるか、あるいは求めるものにある$\tan \theta$を変形して$\sin \theta , \cos \theta$を登場させるかしたい。
もしそうできれば、条件を利用することができそうだから。
$\sin \theta , \cos \theta$を変形して$\tan \theta$を登場させるか、もしくは$\tan \theta$を変形して$\sin \theta , \cos \theta$を登場させるか。
いずれの場合であっても、$\tan \theta$と$\sin \theta , \cos \theta$との関係を表す式が必要なことに変わりない。
ということで、頭の中にある$\tan \theta = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta}$という関係式を登場させて、式変形していこうと思うわけです。
求めるものを式変形していくほうが、$\tan \theta = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta}$をそのまま代入できるので、話が単純に進んでいきそう。ということで、$\tan \theta + \displaystyle \frac{1}{\tan \theta}$に$\tan \theta = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta}$を代入し、
$\tan \theta + \displaystyle \frac{1}{\tan \theta} = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta} + \displaystyle \frac{\cos \theta}{\sin \theta}$
というふうに進んでいっている、ということになります。
条件は$\sin \theta$と$\cos \theta$、求めるものは$\tan \theta$。だから$\tan \theta = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta}$を使ってみようかな、というとても単純な動機を出発点にしているわけですね。
「そう考えていく理由はなにか?」を問う。ささやかな疑問を大切にし、「なんでやねん」と積極的にツッコミを入れていく。考えていく理由に注目し、解説の流れを、そこにあるストーリーを読み解く。
「そう考える理由があるはず」 という目で定義や定理、定理の証明、問題の解説をながめ、ツッコミを入れ、理由が明らかになったとき、一つにつながる感覚を覚えます。道筋が見えるようになってきます。これこれこういう理由で、この考えが出てくる、と。
道筋が明らかになること。一つにつながること。これらは、理解を深いレベルに掘り下げてくれます。
深く理解したことは、忘れにくく、また、自分でその理解を使えるようにもなります。自分の足で、道筋を追えるようになる、ということです。
小さな疑問を大切にし、「そう考えていく理由はなにか?」を問えば問うほどに、ツッコミを入れれば入れるほどに、自分の足で進む力はついていきます。
「あ、前もこんな風に考え、進んでたな」「以前もこの理由で考えてったことあったな」という、既視感を得ることも多くなってきます。
「つながり」の部分がしっかり結びついているので、考えの流れを自分で追うことができるようになる。
それは、「自分で考えていく力」が育っていっていることに他ならないと思うのです。
また、一つにつながった瞬間「なるほど!」と自分の中にピシッと走るものがあります。この感覚は、強烈です。強烈な、快感です。この快感は、学ぶことでしか味わうことはできない。
つながる感覚、つながる快感を得たいから、学ぼうと思えるのかもしれません。
ツッコミを入れ、考え、理解する。
このプロセスを経るか経ないかで、数学に対する向き合い方が大きく変わってしまうように感じます。
関西人になったつもりで、ことあるごとに「なんでやねん!」とツッコミを入れて欲しいな、と思います。
では、お読みいただきありがとうございました。