「”ひらめき”はいらない」という目で見る ー数学からぼくが学んだこと2ー
“とりあえず”・”なんとなく”進むのではなく、まずは、「条件と求めるものを確認」し、今自分のいる場所と、向かうべき目的地を確認する。
こんな当たり前のことが、実はとても大切です。
「条件と求めるもの」は、最初に確認しさえすればいい、というものでもありません。
間違った道を進んでいることに気付いた時にも、再度「条件と求めるものを確認」するという行為は、別の一歩を探る手がかりとなってくれます。
また、「条件と求めるものを確認」することは、「ひらめき」に頼らず、一歩一歩着実に進んでいくための基本にもなってきます。
$x$軸に接し、$2$点$(2, 3), (-1, 12)$を通る2次関数の方程式を求めよ。
この問題の解答を眺めてみます。はじめの一行だけ。こんな風に書かれていることが多いはず。
解)求める2次関数の方程式は、$y=a(x-p)^2$とおける。
問題を自分で解くことができずに解答をひらいた人は、この一行を見ると、もしかすると「なんでいきなりそうおけるってわかるねん!」とツッコミを入れたくなるかもしれません。
実際ぼくはそうでした。「なんでいきなりそうおけるってわかるねん、なんでそうおこうと思うねん」とモヤモヤしながらも、問題の解答を覚え、とりあえずその問題については解けるようにする、というスタンスで数学を勉強していました。
ずっとモヤモヤを抱いたままなのですっきりせず、楽しく学ぶことなんてできませんでした。
そんなぼくは恩師に出会い、「条件と求めるものを確認」することの大切さを学びました。それに加え、「”ひらめき”は必要ではない」ということも。
「条件と求めるものを確認」してみましょう。
- 条件:$x$軸に接し、$2$点$(2, 3), (-1, 12)$を通る2次関数
- 求めるもの:2次関数の方程式
求めたいのは、「2次関数の方程式」なわけです。じゃあ、「2次関数の方程式」ってのはいったいなんなのか。そう疑問を持つことができれば、次に進んでいくことができます。
2次関数の方程式は$y=ax^2+bx+c$という形をしています。2次関数なので、$a \neq 0$です。$a=0$だと、$x^2$が消えてしまい、次数が$2$の項がなくなり、「2次」の関数ではなくなってしまうからです。
そして2次関数では、もう一つの表現方法も大切です。それが、$y=a(x-p)^2+q$という形。一つ目の式を平方完成し、頂点の座標が$(p, q)$とわかるように式変形したものになります。
この二つの表し方は基本的な事柄で、2次関数を学ぶと必ずでてくること。ひらめく類のことではありません。
次は条件をみてみます。「$x$軸に接し」と書かれています。
つまりこれは、「頂点が$x$軸上にある」ということ。条件として、”頂点に関すること”が与えられていることがわかりました。
求めたい2次関数には二つの表現がありました。一般的な$y=ax^2+bx+c$と、頂点の座標が$(p, q)$である$y=a(x-p)^2+q$です。
一方、条件を読むと、”頂点に関する情報”が与えられていました。
2次関数の二つの表現のうち、条件の”頂点に関する情報”を扱うためには、頂点の座標が$(p, q)$である、$y=a(x-p)^2+q$という方が使えそうです。
「頂点が$x$軸上にある」ので、頂点の$y$座標は$0$です。つまり、$(p, q)$の、$q=0$。
となると、$y=a(x-p)^2+q$の$q$が$0$であることから、求める2次関数の方程式は$y=a(x-p)^2$という形をしているはずだ、とわかります。
ということで、解)の一行目にあるように、「求める2次関数の方程式は、$y=a(x-p)^2$とおける」わけです。
少し、混み入った話になってしまいました。混み入った話になったものの、”ひらめき”が必要となる部分は、一切ないように思います。
まず「条件と求めるものを確認」する。それに、自分の知識を組み合わせて思考を進めていく。
数学のそういう側面が伝わってほしいな、と思います。
「”ひらめき”が必要ではない」と学び、実際の問題たちを通してそれを実感してから、ぼくは数学がすごく楽しくなりました。問題の解説というのは、はじめから最後まで忠実に組み立てられた”流れ”があることがわかったからです。それはもう、よくできた「ストーリー」です。
もちろんこれは数学の”問題”に限ったことではありません。数学で学ぶいかなる”定義”や”定理”においてもそう。
自分では答えまでのストーリーを組み立てることができないかもしれない。自力では結末まで進めないかもしれない。でも、そのストーリーを理解し、味わうことはできる。
そういう思いで数学を学んでいます。楽しんでいます。
数学の魅力的なストーリーたちが、どんどん語られ、味わわれていけばいいな、と願っています。
魅力的なストーリーを、その魅力を失わせることなく、伝えることができるようになりたいと思っています。
では、お読みいただきありがとうございました。
問題の解説
「条件と求めるものを確認」してみましょう。
- 条件:$x$軸に接し、$2$点$(2, 3), (-1, 12)$を通る2次関数
- 求めるもの:2次関数の方程式
求める2次関数の方程式を、$y=a(x-p)^2$とおきます。
先ほど確認したように、条件にて、”頂点に関する情報”として「$x$軸に接する」と与えられており、このことから、「頂点の$y$座標が$0$となるので、$y=a(x-p)^2$とおける」のでした。
与えられている条件をさらにみると、「$2$点$(2, 3), (-1, 12)$を通る」とあります。
例えば、関数が「点$(1, 2)$を通る」ということからわかることは、関数の$x$に、点$(1, 2)$の$x$座標である$1$を代入すると、そのときの$y$の値は点$(1, 2)$の$y$座標である$2$になる、ということ。つまり、$x$と$y$のそれぞれに、点$(1, 2)$の$x$座標、$y$座標を代入した式が成り立つ、ということです。
$y=a(x-p)^2$が$(2, 3)$を通ることから、$x=2$と$y=3$を代入した式、$3=a(2-p)^2$が成り立ちます。
同様に、$(-1, 12)$を通ることから、$12=a(-1-p)^2$が成り立ちます。
あとは、この2つの式を利用して、$a$と$p$の2つの文字の値を求めていきます。
2つの未知数$a$と$p$に対して、2つの式を導くことができました。2つの式があれば、2つの未知数$a$と$p$の値を求めることができるはずです。
$$
\begin{array}{l}
3=a(2-p)^2 \mbox{・・・(1)}\
12=a(-1-p)^2 \mbox{・・・(2)}
\end{array}
$$
(1)の両辺を$(2-p)^2$で割って、
$$
3=a(2-p)^2 \Leftrightarrow \frac{3}{(2-p)^2}=a
$$
これを(2)に代入すると、
$$
\begin{align}
~ & ~~ 12 = a(-1-p)^2\
& \Leftrightarrow 12 = \frac{3}{(2-p)^2}(-1-p)^2
\end{align}
$$
これを解いていきます。
$$
\begin{eqnarray}
&~ &12=\frac{3}{(2-p)^2}(-1-p)^2 \
&\Leftrightarrow &12(2-p)^2=3(-1-p)^2 \mbox{ (両辺を}(2-p)^2\mbox{倍した)} \
&\Leftrightarrow &4(2-p)^2=(-1-p)^2 \mbox{ (両辺}\div 3 \mbox{)}\
& \Leftrightarrow & 4p^2-16p+16=p^2+2p+1 \
& \Leftrightarrow & 3p^2-18p+15=0 \
& \Leftrightarrow & p^2-6p+5=0 \mbox{ (両辺}\div 3\mbox{)}\
& \Leftrightarrow & (p-1)(p-5)=0\
& \Leftrightarrow & p= 1 , 5
\end{eqnarray}
$$
$p=1$のとき、(1)に代入すると、
$3=a(2-1)^2 \Leftrightarrow a=3$。このとき、求める2次関数は$y=3(x-1)^2$。
$p=5$のとき、(1)に代入すると、
$3=a(2-5)^2 \Leftrightarrow a= \displaystyle \frac{1}{3}$。このとき、求める2次関数は$y=\displaystyle \frac{1}{3}(x-5)^2$。
というわけで、答えは$y=3(x-1)^2 , y=\displaystyle \frac{1}{3}(x-5)^2$であることがわかりました。