「平方完成考えたやつって、頭ええよなぁ。」からはじまる数学

「平方完成考えたやつって、頭ええよなぁ。」

「平方完成って、$x^2-6x+2=(x-3)^2-7$っていう風に、2次式を平方の形に式変形するやつだよね。」
[image:626C29C6-F25D-4604-8296-A1ED0F92B7F5-19553-000010B817C66455/16543414187_918eca16d3.jpg]
「確かに、これを考えた人って、きっとすんごい頭良かったんだろうなぁって思うね。」

「やろ?こんな式変形、自分で思いつかへんわ。」

「うんうん確かに。まぁ自分で思いつかなくても、ある意味それは仕方ないことなんじゃないかなぁ。だって僕たちが今学んでいる数学っていうのは、何百年もかけて発展してきたことをほんのごく短い期間の間に習ってるんだから。」

「そうか、習ってると、「そんなん思いつかんわ!」っていうようなことばっかりに感じるけど、確かにそれって当然なんかもな。昔のかっしこい人が、あーでもないこーでもないって考えながら発展させてきたやつなわけなんやから。じゃあ、思いつかんくてもしゃーないしゃーない。覚えたらええんか。でも、おれ覚えるのん、むちゃ苦手やねん。」

「覚えてしまえば、暗記してしまえばいいってのは、1つの方法としてはありかもしれない。でもそれじゃあ数学の楽しさを感じにくくなっちゃうよね。自分で考えつかないことは、ことごとく覚えていくってなったら、結局ぜーんぶ覚えないといけないことになりかねないじゃん。
自分で考えつくのは、確かにかなり難しい。でも、はじめに考えついた人が、どういう意図も持って式変形していったのか、なぜ考え付いたのかってのを、推測してみるって事は出来ると思う。その推測が、あっているにしろ、間違っているにしろ、自分の頭で考えながら、先人の道筋を辿ろうとすることは、覚えるだけよりも得るものは格段に多いんじゃないかな。」

「「なんで考え付いたんか?」を推測できるってほんまか?平方完成も、なんでそう式変形しようと思った推測できるもんなんか?」

「うん。ぼくなりにだけど、なぜ平方完成っていう式の変形の仕方を考え付いたのか。どんな意図で、そのように式変形をしてみようと思いついたのか、説明することはできるよ。あくまでも、ぼくの推測になっちゃうけど。」

「ほんまかいな!?それ、なんかおもろそうやな!じゃあ、なんで平方完成っていう式変形は生まれたん?」

「そうだなぁ。。。どんなときに、平方完成する?」

「えー、2次関数の頂点求める時やな。」

「他には?」

「他には?てか。んー、 2次方程式の解の公式の証明にも出てきたんとちゃうかな。」

「うん、その2つがぼくもすぐに考えつく。で、はじめはたぶん2次方程式の解を求めようとしたときに、平方完成ってのは生まれたんだと思うんだ。
解の公式の証明は、係数を1般的な文字で表して、平方完成を使って解を求めていけばいい。公式ができたのは、まず2次方程式が解けるようになってからだろうから、ぼくたちは、係数の値として、具体的なものについて考えていってみよう。
例えば、$x^2-4x-1=0$っていう2次方程式があるとする。これを、「はじめて解くことができた人は、どんなことを考えたんだろう?」「何に注目して、式を扱っていったんだろう?」と想像するんだ。」

「想像する言われても。。。解の公式使えば解けるけども、それはまだ生み出されてへんってことやんな?」

「そうそう。」

「うーん。。。」

「今考えてるのは2次方程式なんだけど、もっと簡単に解を求めることができる方程式ってどんなのがある?”2次”は難しい。けども、もっと簡単な。。。」

「あー、1次方程式やったら、簡単や。 $3x-2x+1=0$とかは、計算して、移行して、 $x=-1$が答え。」

「おー!そうそう!丁寧に式変形を追えば、
$$3x-2x+1=0 \Leftrightarrow x+1=0 \Leftrightarrow x=-1$$
だよね。じゃあ、はじめの式変形は、どんなことを考えながらした?」

「$3x-2x$ は計算して$x$にできるなぁ思うて。」

「うん、そこ。$x$どうしは計算することができるから、計算してしまう。」

「うん。」

「じゃあ、 $x-4x+5x=$ 、、、これなら、どうする?」

「そんなん簡単やん。 $x-4x+5x=2x$やろ?」

「そうそう。 $x-4x+5x=-3x+5x$ってはじめの2項だけ計算しておしまい、にはしないだろ?1つになるまで式変形できるなら、式変形してしまう。つまり、文字は散らばっているなら、計算して1つにまとめたいんだよ。そのほうが、式として整理されているし、1つにすることで、「$x=$」の形にまでもっていくことができて、解が求まる。
[image:239285B2-4F0C-44B5-BD2A-F6E377566B50-19553-000010B817AFE12A/16750677355_eb8fbb18d3.jpg]
文字式をみて、同じ文字が散らばっているとき、計算できるなら計算してしまって、1つにまとめたいなぁって思う。それはとても自然なこと。そうすることで、解が求められるから。」

「ふんふん。確かに同じ文字は計算してもうて、1つにしてまうな。そうか、同じ文字は、散らばってるなら1つにしたい。やから、計算して整理してまうんか。」

「ここで、具体的に考えてる2次方程式を眺めてみよう。$x^2-4x+1=0$をぼくたちは解きたいんだったよね?」

「文字$x$は、2箇所にあるな。$x^2$と$4x$と。これを、もし1箇所にまとめることができれば、嬉しいわけやな。」[image:094E3E22-DEAF-452F-8AC4-665F4C79ED01-19553-000010B817A5B2F7/16750677305_3df33b0de9.jpg]

「”嬉しい”って表現いいね。そう、嬉しいんだ。なんせ、そうできれば、解が求められそうだから。$x^2-4x$という2箇所にある$x$を、1つにしてしまいたい。そう考えながら、じぃーっと式を眺め、あれこれ変形してみる。
ただ、この手がかりだけでは、なかなか平方完成には結びついていかないと思う。ちょっと視点を変えながら、もう少し考えてみよう。

$x^2-4x+1=0$は、2次方程式だよね?この方程式を解きたい。解きたいんだけど、いきなりこれをスラスラと解くことはできない。そこで、どうしよう、となる。でもこれが、さっきも確認したように、$3x-2x+1=0$っていう1次方程式なら解ける。解ける形から、今の解けない形をどう扱っていけばいいかってのを考えてみて、「散らばっている文字をまとめたい」ってのが出てきた。だからさらに、解ける形を考えていってみよう。

じゃあ、2次方程式で、解ける形ってないかな?」

「2次方程式で解ける形。。。」

「きっと頭のどこかにはあると思うんだ、簡単に解ける2次方程式が。今はまだそこと結びついてないから、出てこないだけで。」

「うーん。」

「もう少し考える材料を。散らばってる文字を1つにできたら、「$x=$」の形に持っていけそうなんだよね?」

「でも、1つに計算してしまえるのん、から1次方程式 のときやろ?2次方程式で散らばってるのんを1つにできへんから、今困ってるんやん。」

「散らばってる、文字が2箇所にある2次方程式が嫌なら、1箇所にしかない式を考えてみるってのは?」

「はじめから、文字が1箇所にしかない2次方程式。。。あ!$x^2=4$って2次方程式やんな?これやったら、$x= \pm 2$っていう風に、解くことができるわ!」
[image:8091D163-0657-484B-8A04-7212595141FE-19553-000010B81795C77A/16130738143_46383abc6e.jpg]

「そうそうそうそう!$x^2=4$っていう風に、最初から$x$が散らばっていない、1次の係数が0のときは、解けちゃうだろ?ほら、解ける2次方程式をみつけることができた。」

「ほんまやなー見つけれたわ。」

「じゃあ、今の解けないやつを、解ける形に変形したいなぁって思うよね。」

「え?でもな、$x^2-4x$て$x^2=$って形には変形できひんくない?」

「うん、$x^2=$の形には変形できないよね。ただ、ここで大事なのは、

$x^2=$という形は、

1次方程式みたいにすんなりといかないのは、2次方程式は”2次の”方程式だからだ。2乗されてる部分がやっかいだった。でも、$x^2=$って形にできれば、、、」

「やっかいな2乗の部分を解消できるわけやな!」

「うん!

「ここで、今まで考えたことを整理してみよう。まず、方程式を解く上では、

  • 文字は、一箇所にまとめられると、うれしい

ということ。また、

  • 解ける2次方程式の形は、$\fbox{ }^2=a$

だということ。」

どうにか、$\fbox{ }^2=a$っていう形に変形できないかな、[2乗]=[値]って形にしたいな、って。これで、手がかりが2つになった。」

「$x^2-4x$の散らばってる$x$を1つにしたい。$\fbox{ }^2=a$って形に持っていきたい。$x^2-4x$の散らばってる$x$を1つにしたい。$\fbox{ }^2=a$って形に持っていきたい。。。やから、2乗の展開公式が浮かんでくるわけか!」
[image:9B30498F-4542-4F1D-8586-B27C0632C6E0-19553-000010B817828804/16749500311_34945d0351.jpg]

「そう!2乗の展開公式は、$(x-a)^2=x^2+2ax+a^2$。右辺を見てみると、今変形したい $x^2-4x$ っていうのに似た形がある。左辺は、右辺では散らばっている$x$が、1つにまとまってるよね。どうやらこれは、使えそうだな、と。」

「具体的に、$x^2-4x$の部分を変形してみよう。この形は、$(x-2)^2$を展開すると出てくる。
$$(x-2)^2=x^2-4x+4$$
4だけを左辺に移行すると、
$$(x-2)^2-4=x^2-4x$$
右辺の式は、左辺の式へと変形することができる。これを利用して、もとの$x^2-4x+1$を変形していく。

$$
\begin{align}
x^2-4x+1=0 & \Leftrightarrow (x-2)^2-4+1=0 \
& \Leftrightarrow (x-2)^2-3=0 \
& \Leftrightarrow (x-2)^2=3
\end{align}
$$

ここから、$x-2= \pm \sqrt{3}$となるので、解は$x=2 \pm \sqrt{3}$。求めることができた。」

「2乗の形にもっていきたいことと、$x^2-4x$という形で散らばっている$x$を1つにまとめたいこと。この2つの手がかりから、2乗の展開公式 $(x-2)^2=x^2-4x+4$を利用するってところに行き着いたってわけか。んで、”平方完成”は生まれた。」

「あくまでもぼくの推測だけどね。でもこんな風に、手がかりを探して、それをもとにどう考え、生まれたのか推測するの、楽しいだろ?だからぼくは、公式とかが出てきたら、「どんなことを考えたのか?」「どういった目的で、式を扱っていったのか?」ってのを自分なりに考えるようにしてる。そうすると、ただ公式を覚えるよりも、得るものが、何倍にもなるんじゃないかと思うんだ。そして、覚えるだけよりも、何十倍も楽しい。」

「おれも「こんなん思いつかんわぁ」て投げ出さず、ちょっと考えてみるようにしてみよかな。昔のえっらい人は、なんでこういう風にしようと思ったんやろう?って。」

See Also