思いつかないこともある。だからおもしろい ー数学からぼくが学んだこと4-

数学はこれまで、何百年も、何千年もかけて発展してきました。
そして、ぼくたちが学ぶ数学は、数学にたずさわる多くのかたがたが、年月をかけて整えてきたものです。
「あーでもないこーでもない」と苦心したうえに出来上がった道なはずです。
数学が何百年も、何千年もかけて発展してきた道を、ぼくたちは10数年で進んでいきます。
考えると、これって、ものすごいスピードです。
過去の数学的知見を最短コースで学ぶことができる道が、ぼくたちには与えられている。
一見その道を歩いていくと、確かにスピーディーにいろんな数学の内容を学ぶことができるかに見えます。


「そんなん思いつかへんわ」
数学を学んでいて、こう思ったことが一度や二度はあるはず。
数学の理路整然な様を見たとき。
証明を理解しようとあがいているとき。
問題が解けず、解答・解説を読んできるとき。
思いつかないと感じるのは、整えられた道を進むがゆえだと思うんです。
何百年、何千年の発展の歴史を、10数年で学ぼうとするがゆえだと思うんです。
ある概念が定義され、その次にはその定義から導かれる定理の証明に入っていく。
さらにその定理からまた新たな定理が導かれていく。
そうして、スススーっと進んでいってしまう。
新しい定義がどんどん出てきて、定理がポンポンと生まれ、問題に鮮やかな解答が与えられていくってのを見せられ続けると、「そんなん思いつかへんわ」だらけになってしまいます。
数学が「思いつき」や「ひらめき」だけを頼りに発展したもののように感じてしまいます。
でも、ちょっと考えてみてください。
数学は、できあがっているその最中から、発展を遂げているまさにそのときから、ぼくたちが学ぶ数学のように整っていたのでしょうか。
そうではないはず。
「あーでもないこーでもない」という苦心を経て、整理されてきたはず。


定義というのは、ただやみくもにされていくものではありません。それを定義する理由が、必然性があります。
定理というのは、ぽっと出現するものではありません。ある事柄を定め、それについて考えに考えて考え抜いた末に出てきたものです。
「思いつき」や「ひらめき」には、必ずその背景が、思いつく理由が、ひらめくストーリーが隠されています。
その思いつく理由は、とても単純な疑問であったりします。
ひらめいたストーリーは、シンプルな問いから生まれていたりします。
ごくごく自然に抱く小さな疑問。そこから数学の世界は広がっていってるんです。
その背景を知らずに、ストーリーに触れずに数学を学んでいくのは、なんともったいないことか。


整えられている道を歩んでいると、その道が昔は全然整えられておらず、でこぼこであった事実を想像する事は確かに簡単ではありません。
つい、ずっとそうであったように、はじめから整った状態であったように思ってしまいます。
整えられすぎているがゆえに、「思い付き」や「ひらめき」の連続であるかのように錯覚してしまいます。
なので、「そんなん思いつかへんわ」と感じることは、ある意味仕方のないこと。
思いつかないこともあるに決まってます。だって、すごい年月をかけて発展してきた数学を、ものすごいスピードで学んでいくわけですから。
でもね、「そんなん思いつかへんわ」と感じ、思いつかないから覚えちゃえってなっちゃうのは、ぼくは嫌なんです。
そんな数学、楽しくない。
「思いつかへんわ」ってなって、もう数学イヤってなってしまうのが悲しい。
数学はすごくおもしろいのに。
だからどうか、「思いつかへんわ」と思っても、そこで見切りをつけないでほしいんです。
思いつかないと感じても、一度立ち止まり、「思いついた理由がどこかにあるはず」ととらえてみてほしいんです。
「あーでもないこーでもない」と考えてみてほしいんです。
「確かに思いつかないかもしれない。けど、思いついた理由がどこかにあるはず」と考え、数学に触れていったほうが、驚きや発見と出会う機会は格段に増えます。
いっそこう考えるのもいいかもしれません。
「ひらめきなんてないはず」と。
そして、ストーリーを明らかにするために、いったん立ち止まり、考えてみる。
それができるか否かで、数学の楽しさは大きく違ってくるように思います。


「”ひらめき”はいらない」」という視点で眺めることができるようになると、それまで思考停止の要因であった「そんなん思いつかへんわ」が、思考を進めるトリガーとなってくれます。
「そんなん思いつかへんわ」。でも、「ひらめきなんてない」はず。じゃあ、「そう思いつく理由を、ひらめいたわけを明らかにしてやろう」と。
思いつく理由さがしや、ひらめきいたわけを明らかにしていく術として、「条件と求めるものを確認」することや「ツッコミを入れる」ことなんかが役立ってくれるのではないか、と思います。

連載のおわりに

数学のおもしろさを、もっとたくさんの人に感じてほしい。楽しみ方を知ってほしい。
そういう思いから、「数学からぼくが学んだこと」を書きました。
ぼくは、数学をおもしろいと、楽しいと感じています。じゃあ、なぜそう感じるようになったのか。どういったことを学んできてそんな思いに至ったのか。それが少しでも伝わればいいな、と考えての連載でした。
ちょっとでもいいから、数学を楽しむ一助になれば、うれしい限りです。

では、お読みいただきありがとうございました。